大和本草卷之十四 水蟲 蟲之上 水黽
水黽 本草ニ出タリ有毒ト云リ水馬トモ云水上ニウカ
ヒ游フ身長クシテ四足アリ足ナカシ後足最長シ畿内ニテ
鹽ウリト云筑紫ニテアメタカト云其臭糖ノ如シ雞犬食
ヘハ死ス
〇やぶちゃんの書き下し文
水黽[やぶちゃん注:右に「シホウリ」とルビし、「黽」の左に「マウ」と振る。] 「本草」に出でたり。毒有りと云へり。水馬とも云ふ。水上にうかび游〔ただよ〕ふ。身、長くして四足あり、足、ながし。後ろ足、最も長し。畿内にて『鹽うり』と云ひ、筑紫にて『あめたか』と云ふ。其の臭ひ、糖の如し。雞犬、食へば死す。
[やぶちゃん注:「水黽」「水蠆」の功に既出既注。「水上にうかび游ふ。身、長くして四足あり、足、ながし。後ろ足、最も長し」「其の臭ひ、糖の如し」は異翅(カメムシ)亜目アメンボ科アメンボ亜科アメンボ(飴坊)Aquarius paludum とよく合致するが、ここに記されたような毒性はない。
「畿内にて『鹽うり』と云ひ」「鹽うり」(しほうり(しおうり)という別名はサイト「昆虫研究所」の「アメンボ」の別名に「シオウリ」を見出せる(逆の「アメウリ」もある。静岡県の児童の自由研究と思われる「アメンボの不思議」(PDFファイル)の方言の項を見ると山口県の方言として「アメウリ」が見出せる)。
「筑紫にて『あめたか』と云ふ」見出せない。上に示した「アメンボの不思議」の地図を見ると、佐賀県の位置に「アメヤリン」、福岡に「ガロッパ」(これは水神としての河童とアメンボの強い連関性を示すもので、「能登方言」のコラムにある全国のアメンボの方言収集によれば実際に各地で「ミズノカミサン」「スイジンサン」「カワノカミサン」「ミズノカンサマ」といった方言名を見出せる)、「アナンチョ」、鹿児島に「ガラッペムシ」(これも河童関連であろう)といった呼称は見出せる。]
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