散步スケツチ 山之口貘
散步スケツチ
柔毛のやうな叢のなかの
蹲まつてゐる男と女
べんちの上の男と女
あつちこつちが男と女
なんと
男と女の流行る季節であらう
友よ
僕らは、
きみはやつぱり男で
ぼくもあひにく男だ。
[やぶちゃん注:【2014年6月25日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証、注を一部追加した。】初出は昭和一二(一九三七)年十二月二十六日附『都新聞』。
「定本 山之口貘詩集」では、題名が「散步スケッチ」と拗音化され(但し、同書を底本とする思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」では「散步スケツチ」のママである。不審である)、第一連(一・二行目)が、
產毛のやうな叢のなかの
蹲つてゐる男と女
と「柔毛」が「產毛」に変えられ、「蹲まる」の送り仮名が改められており、九行が、
男と女の流行(はや)る季節であらう
と「流行る」にルビが打たれている。
私は個人的な偏愛的語彙感覚から「產毛」(うぶげ)より「柔毛」(にこげ)の方が、断然、好きである。バクさんが「柔毛」を「うぶげ」と読んでいたのだとすると(その可能性がないわけではない)、激しく失望する程度に、私は「にこげ」のイメージと音色を偏愛する人間なのである。因みに、亡き母に、昔、小学校六年生の時、この話をしたら、「私は『煮焦げ』を思い出して、何だか、いやだわ。」と笑いながら一蹴されたのを懐かしく思い出す)。
【二〇二四年十一月二日追記・改稿】国立国会図書館デジタルコレクションの山之口貘「詩集 思辨の苑」(昭一三(一九三八)年八月一日むらさき出版部刊・初版)を用いて(当該部はここ)、正規表現に訂正した。]