底を歩いて 山之口貘
底を歩いて
なんのために
生きているのか
裸の跣で命をかかえ
いつまで経っても
社会の底にばかりいて
まるで犬か猫みたいじゃないかと
ぼくは時に自分を罵るのだが
人間ぶったぼくのおもいあがりなのか
猫や犬に即して
自分のことを比べてみると
いかにも人間みたいに見えるじゃないか
犬や猫ほどの裸でもあるまいし
一応なにかでくるんでいて
なにかを一応はいていて
用でもあるみたいな
眼をしているのだ
[やぶちゃん注:【2014年6月27日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証済。本注を追加した。】初出は昭和三五(一九六〇)年六月号『小説新潮』。思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」の解題によれば、草稿原稿の裏側に『1959.10.26』という附記があるとある。]