動物園 山之口貘
動 物 園
港からはらばひのばる夕暮をながめてゐる夜烏ども
椽側に腰をおろしてゐて
軒端を見あげながら守宮の鳴聲に微笑する阿呆ども
空模樣でも氣づかつてゐるかのやうに
生活の遠景をながめる詩的な凡人ども
錘を吊したやうに靜かに胡坐をかいてゐて
酒にぬれてはうすびかりする唇に見とれ合つてゐる家畜ども
僕は、 僕の生れ國を徘徊してゐたのか
身のまはりのうすぎたない鄕愁を振りはらひながら
動物園の出口にさしかゝつてゐる
[やぶちゃん注:【2014年6月25日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証済。注を一部追加した。】初出は昭和一〇(一九三五)年五月倍大号『羅曼』に総標題「動物園」で本詩以下、前の「春愁」・「座談」の三篇が掲載された。「定本山之口貘詩集」では、第二連一行目冒頭の「椽側」が「緣側」(底本の校異は新字体「縁側」)に、同第二連第二行目の「守宮」に「やもり」のルビが振られてある。
【二〇二四年十一月二日追記・改稿】国立国会図書館デジタルコレクションの山之口貘「詩集 思辨の苑」(昭一三(一九三八)年八月一日むらさき出版部刊・初版)を用いて(当該部はここ)、正規表現に訂正した。]