晴天 山之口貘
晴 天
その男は
戶をひらくやうな音を立てゝ笑ひながら
―― ボクントコヘアソビニオイデヨ
と言ふのであつた
僕もまた考へ考へ
東京の言葉を拾ひあげるのであつた
―― キミントコハドコナンダ
少し鼻にかゝつたその發音が氣に入つて
コマツチヤツタのチヤツタなど
拾ひのこしたやうなかんじにさへなつて
晴れ渡つた空を見あげながら
しばらくは輝やく言葉の街に彳ずんでゐた
[やぶちゃん注:【2014年6月25日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証済。注を一部追加した。】初出は昭和一一(一九三六)年八月発行の『むらさき』。「定本 山之口貘詩集」では、第一連三行目と第二連三行目の頭に附された「――」が除去されており、最終行の「彳ずんでゐた」の漢字表記が「佇ずんでゐた」に変えられてある。
【二〇二四年十一月二日追記・改稿】国立国会図書館デジタルコレクションの山之口貘「詩集 思辨の苑」(昭一三(一九三八)年八月一日むらさき出版部刊・初版)を用いて(当該部はここ)、正規表現に訂正した。]