山之口貘 詩三篇 満員電車 / 胃 / 鼻
満員電車
爪先立ちの
靴がぼやいて言った
踏んづけられまいとすればだ
踏んづけないでは
いられないのだが
[やぶちゃん注:【2014年6月27日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証済。初出注を変更した。】初出は昭和三六(一九六一)年三月十四日附『沖縄タイムス』。]
胃
米粒ひとつも
はいっていないのだから
胃袋が怒りで
いっぱいなのだ
[やぶちゃん注:【2014年6月27日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証済。】初出は昭和三六(一九六一)年三月二十五日号『季刊 沖縄と小笠原』で、初出時は詩題が「胃袋」、次の「鼻」とともに掲載された。同誌は「沖縄協会」(公益財団法人沖縄協会。沖縄平和祈念堂の管理・運営などを行っている公益財団法人)の前身である特殊法人南方同胞援護会が発行していた機関紙。]
鼻
その鼻がいいのだ
と答えたところ
鼻はあわてて
掌に身をかくした