石に雀 山之口貘
石に雀
ペンを投げ出したのが
暁方なのに
寝たかとおもうと
挺子を仕掛ける奴がいて
いつまで寝ているつもりなんですか
起きてはどうです
起きないんですかとくるのだ
何時なんだい
と寝返りをうつと
何時もなにもあるもんですか
お昼というのにいつまでも
寝っころがっていてなんですかとくるのだ
降っているのかい
とまた寝返りをうつと
照っているのに
ねぼけなさんなとくるのだ
降っている音がしているんじゃないか
雨じゃないのかい
と重い頭をもたげてみると
女房は箒の手を休め
トタン屋根の音に耳を傾けたのだが
あし音なんです
雀の と来たのだ
[やぶちゃん注:【2014年6月28日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証済。初出注を追加した。】初出は昭和三三(一九五八)年四月一日号『産経時事』。初出時のタイトルは「石と雀」。]