大和本草卷之十四 水蟲 蟲之上 鼓蟲
鼓蟲 マヒマヒムシ筑紫ノ方言カイモチカキト云水上ニウカ
フ小黑蟲也螢ニ似テ少長シツ子ニ水上ヲオヨキメクリテ
ヤマス本草ニシルセリ但メクル事ハシルサス
〇やぶちゃんの書き下し文
鼓蟲 まひまひむし。筑紫の方言、『かいもちかき』と云ふ。水上にうかぶ。小黑〔おぐろ〕き蟲なり。螢に似て少し長し。つねに水上をおよぎめぐりてやまず。「本草」にしるせり。但し、めぐる事はしるさず。
[やぶちゃん注:鞘翅(コウチュウ)目オサムシ亜目飽食亜目オサムシ上科ミズスマシ科 Gyrinidae に属するミズスマシ類。ウィキの「ミズスマシ科」によれば、成虫の体長は孰れの種も数ミリメートルから二〇ミリメートルほどの小型の甲虫で、日本では三属十七種類ほどが知られる。『成虫の体の上面は光沢のある黒色で、楕円形で腹背に扁平な体型である。触角は短く、6本の脚も全て体の下に隠せる。前脚は細長いが、中脚と後脚はごく短い。複眼は他の昆虫と同様2つだが、水中・水上とも見えるように、それぞれ背側・腹側に仕切られている』。『成虫は淡水の水面を旋回しながらすばやく泳ぐ。同様に水面で生活する昆虫にアメンボがいるが、アメンボは6本の脚の先で立ち上がるように浮くのに対し、ミズスマシは水面に腹ばいに浮く。また、アメンボは幼虫も水面で生活するが、ミズスマシの幼虫は水中で生活する』。『日中に活動する姿を見ることができるが、流水性のオナガミズスマシ類などは夜行性が強く、夜間にだけ水面に浮上して活動する。成虫は翅を使って飛ぶこともでき、他の水場から独立した水たまりなどにも姿を現す。食性は肉食性で、おもに水面に落下した他の昆虫や、水面で羽化したばかりの水生昆虫の成虫などを捕食する』。『幼虫はゲンゴロウの幼虫を小さくしたような外見をしているが、腹部の両脇に鰓が発達し、水面に浮上して空気呼吸する必要がない。幼虫も肉食性で、アカムシなど小型の水生生物を捕食しながら成長する』とある。ミズスマシ(水澄)は本文にあるように別名「鼓虫」「まひまひ(まいまい)」とも呼ばれる。
「かいもちかき」すぐに連想されるのは「掻餅」(かいもちひ(かいもちい)」で、「もちい」は「もちいひ(餅飯)」の音変化で餅米粉・小麦粉などをこねて煮たもの(一説には蕎麦掻きのこととも)。色に問題があるが、そのようにこねて千切ってご飯粒のように円錐形にしたものに似るか、若しくは水面上での旋回運動が恰もそうしたこねる動作にでも似ているものか。]
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