杉田久女句集 130 菊
菊畠に干竿躍りおちにけり
菊苗を植ゑゐる母にきかすこと
菊の日に雫振り梳く濡毛かな
しろしろと花びらそりぬ月の菊
白菊に棟かげ光る月夜かな
日の緣に羽織ぬぎ捨て菊に掃く
夏菊に病む子全く癒えににけり
黄豆菊に汲みあぐる水や輝けり
[やぶちゃん注:「黄豆菊」は「きまめぎく」で黄の小菊であろう。井筒の脇に一叢をなしていると見たい。]
野菊摘んで水にかゞめば愛慕濃し
咲きほそめて花辨するどき野菊かな
わが傘の影の中こき野菊かな
[やぶちゃん注:菊は正しく久女の花である。菊枕なんどの話ではない。清廉にして気品高く、そうしてどこか慄っとさせるような堪の鋭い香を匂わせる、稀有の才媛久女にとって、まさに菊の香は彼女そのものなのである。]