十二月 山之口貘
十二月
銀杏の落葉に季節の音を踏んで
訪ねて見えたはじめての
若いジャーナリストがふしぎそうに
ぼくの顔のぐるりを見廻して云うのだ
こんな大きなりっぱな家に
お住いのこととは知らなかったと云うのだ
それで御用件はとうかがえば
かれは頭をかいてまたしても
あたりを見廻して云うのだ
それが実は申しわけありません
十二月の随筆をおねがいしたいのだが
書いていただきたいのはつまり先生の
貧乏物語なんですと云うのだ
[[やぶちゃん注:【2014年6月28日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証した際、ミス・タイプを発見、本文を訂正、注を一部改稿した。】昭和三二(一九五七)年十一月三十日附『新潟日報』夕刊で、翌日十二月一日附の同じ『新潟日報』朝刊にも再掲載された。
「貧乏物語」この作品自体は昭和二六(一九五一)年十二月号の『中央公論』に載った、現在、全集第二巻の小説篇に所収する『第四「貧乏物語」』であるらしい(松下博文氏の「稿本・山之口貘書誌(詩/短歌)」注記データに拠る)。とすれば、この詩のシチュエーション自体は発表時から更に六年も前に遡るものであることが分かる。]