橋本多佳子句集「信濃」 昭和十八年 Ⅵ 信濃抄四(1)
信濃抄四
いづこにもいたどりの紅木曾に泊つ
一夜寢て晩ひぐらしを枕もと
足袋買ふや木曾の坂町夏祭
いなびかりつひに我灯も消しにけり
走り出て湖汲む少女いなびかり
秋燕にしなのの祭湖(うみ)荒れて
[やぶちゃん注:「秋燕」特に秋の社日(しゃにち:元来は産土神(社)を祀る日で春分と秋分に最も近い、その前後の戊の日を指す)である秋社(あきしゃ)の日に南へと渡り帰ってゆく燕を指す。例えば今年二〇一四年のそれは九月二十四日に当たる。]
草の中ひたすすみゆく秋の風
雀ゐて露のどんぐり落ちる落ちる
木の實落つわかれの言葉短くも