日本その日その日 E.S.モース(石川欣一訳) 第十一章 六ケ月後の東京 26 地震の記
先週強い地震があった。私は横浜のホテルの二階にいた。これは、私が初めて「聞いた」地震の一つであるから、ここに記録する。ニューインクランドで我々が感じる弱い震動は、耳に聞き得る鳴動を伴うが、今迄のところ、日本の地震は、震動が感じられる丈であった。然るに今度の奴には、まるで沢山の車馬が道を行く時みたいな、鳴動音が先立った。数年間日本にいたハバード夫人が私に、これは重い荷をつけた荷車が通り過ぎる音だといい、私はそれについては、何も心にかけなかったが、次の瞬間、砕けるような、きしむような、爆発するような、ドサンという衝撃が、建物全体をゆり動かし、まったく、もう一度この激動が来たら、建物は崩壊するだろうと思われた。ハバード夫人は気絶せんばかりに驚き、ホテルの人々は当もなく、恐れおびえた様子で右往左往した。これは私が今迄に経験した中で一番強い地震で、私は初めて多少の興奮を感じたが、恐らく他の人々が恐怖の念を示したからであろう。
[やぶちゃん注:「ハバード夫人」原文“Mrs. Hubbard”。不詳。]
六月十六日。私はまたしても、家をゆすり、戸をガタガタさせ、そして三十秒ばかり継続した地震に、目をさまさせられた。
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