ろまんす・ぐれい 山之口貘
ろまんす・ぐれい
ラジオ屋さんが帰ったあとだ
ぼくの顔を見て
ミミコが云ったのだ
うちのにしては上出来で
真新しいものを買ったと云えば
ラジオがはじめてなんでしょうと云った
すると横から
女房が云ったのだ
パパはなんでもお古が好きなんで
机がお古で本棚もお古だ
電気スタンドだってなんだって
古道具屋さんのが好きなんだと云った
そこでぼくにしてみればだ
余計なことはしたおぼえがないので
余計なことは云うなと云った
[やぶちゃん注:【2014年6月27日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証した際、ミス・タイプを発見、本文を訂正、さらにこの初出注を追加した。】初出は昭和三五(一九六〇)年十月号『小説新潮』。]
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