首 山之口貘
首
はじめて会ったその人がだ
一杯を飲みほして
首をかしげて言った
あなたが詩人の貘さんですか
これはまったくおどろいた
詩から受ける感じの貘さんとは
似てもつかない紳士じゃないですかと言った
ぼくはおもわず首をすくめたのだが
すぐに首をのばして言った
詩から受ける感じのぼろ貘と
紳士に見えるこの貘と
どちらがほんものの貘なんでしょうかと言った
するとその人は首を起して
さあそれはと口をひらいたのだが
首に故障のある人なのか
またその首をかしげるのだ
[やぶちゃん注:【2014年6月28日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証済。初出注を追加した。】初出は昭和三三(一九五八)年一月一日号『全繊新聞』。]