飯田蛇笏 靈芝 昭和七年(七十二句) Ⅳ
手向けたる七個の池の水の色
[やぶちゃん注:「七個の池」不詳。識者の御教授を乞う。]
歸省子にその夜の故園花幽き
[やぶちゃん注:「幽き」は「かそけき」ではなく、「あはき」(淡き)と訓じているか。]
鏡みるすがしをとめや暑氣中り
鬱々と蒼朮を焚くいとまかな
[やぶちゃん注:「蒼朮」は「さうじゆつ(そうじゅつ)」と読み、キク目キク科オケラ属ホソバオケラ
Atractylodes lancea の根茎の生薬名。中枢抑制・胆汁分泌促進・抗消化性潰瘍作用などがあり、啓脾湯・葛根加朮附湯などの漢方調剤に用いられる。参照したウィキの「ホソバオケラ」によれば、『中国華中東部に自生する多年生草本。花期は9〜10月頃で、白〜淡紅紫色の花を咲かせる。中国中部の東部地域に自然分布する多年生草本。通常は雌雄異株。但し、まれに雌花、雄花を着生する株がある。日本への伝来は江戸時代、享保の頃といわれる。特に佐渡ヶ島で多く栽培されており、サドオケラ(佐渡蒼朮)とも呼ばれる』とある。]
凉趁うて埠頭の闇や夏帽子
[やぶちゃん注:「趁うて」は「おうて」で「追うて」と同義。]
帶の上の乳にこだはりて扇さす
蚊遣火のなづみて闇の咫尺かな
[やぶちゃん注:蚊遣火が闇に圧倒され、しかもその闇が間近に接近してきて、その闇に恰も摑まれんとするかのような、ある種の無音の凄絶感がよく出ている名句である。]
雷神をのぞめる僕や富士登山
下山して西湖の舟に富士道者
五合目附近、石楠花咲きみだるゝ邊りの地に、
強力の茯苓を掘れる。
茯苓を一顆になへり登山杖
[やぶちゃん注:「茯苓」菌界担子菌門菌じん綱ヒダナシタケ目サルノコシカケ科
Poria 属マツホド Poria cocos の菌核。アカマツ・クロマツ等のマツ属植物の根に寄生して形成する球形の茸(子実体はほとんど見られず球状の菌核のみが見つかることが多い)で表面は暗褐色、内は白色。漢方で利尿・鎮痛・鎮静などに用いる。]