島での話 山之口貘
島での話
来たぞ くろいのが
とそう云えば
女たちはもちろんのこと
こども達までがあわてふためいて
一目散に逃げたものだと云う
それでそれとすぐにわかるような
いかにもくろい男の子なのだが
くろいのが来たぞと云えば
その子までもあわてて
みんなといっしょに
一目散だと云うのだ
[やぶちゃん注:【2014年6月27日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証済。以前に注していた内容には複数の誤りがあったため、注を改稿した。】初出は昭和三四(一九五九)年十一月号『小説新潮』。]