十二月のある夜 山之口貘
十二月のある夜
十二月のある夜 金のことで
ホテルのマダムを詩人が訪ねた
マダムはそっぽを向いて言った
お金のことなんて
詩人らしくもないことです
俗人の口にするみたいなことを
詩人がおっしゃるもんじゃないですよ
お金に用のないのが詩人なんで
詩人は貧乏であってこそ
光も放ち尊敬もされるんです
詩人はそこでかっとなり
借りに来たことも忘れてしまって
また一段と光を添えていた
[やぶちゃん注:【2014年7月追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証済。注を追加した。】初出は昭和三六(一九六一)年十二月十五日号『週刊朝日』及び同年十二月十五日附『琉球新報』(但し、思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」解題に掲載紙の末尾に『週刊朝日十二月十五日号より』という記載があり、実際にはクレジット以前に発行された前者からの転載であるということが分かる)。草稿の詩題は「十二月のある日」であるらしいことが松下氏「稿本・山之口貘書誌(詩/短歌)」のデータにある。]