祟り 山之口貘
祟り
ひとたび生れて来たからには
もうそれでおしまいなのだ
たとえ仏になりすまして
あの世のあたりに生きるとしたところで
かかりのかからないあの世はないのだ
棺桶だってさることながら
おとむらいだのお盆だの
お寺のおつきあいだのなんだのとかかって
あの世もこの世もないのでは
はじまらないからおしまいなのだ
金はすでにこの世の生を引きずり廻し
あの世では死を抱きすくめ
仏の道にまでつきまとい
人間くさくどこにでも崇ってくるのだ
たとえまずしい仏の住む墓が
みみずのすぐお隣りに建ったとしても
ロハってことはない筈なのだ
[やぶちゃん注:【2014年6月27日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証済。初出注を追加した。】初出は昭和三六(一九六一)年六月号『小説新潮』。
五行目「かかり」は「掛かり」で、物事をなすのに必要な費用。]