萩原朔太郎「ソライロノハナ」より「何處へ行く」(5)
島子てふ藝者がくれしハンカチを
母に見られし一大事かな
淺草の活動寫眞に今日もゆく
女の髮の香を嗅ぎに行く
「何なれば羊の如くさまよふや」
「死ぬべき場所を求めんがため」
年ごろをくせともなりぬピストルを
ふとんの下に敷きて寢ること
いづこにか我は行くべき今日もまた
電車に乘りて街をめぐれり
寄宿舍の裏門を出で旅泊屋(はたごや)に
しのびて行くは一人泣くため
[やぶちゃん注:校訂本文は「旅籠屋」とする。採らない。]
涙川ながれを早みのる舟の
棹さしかねついづち行くらん
大雷雨すぎたるのちの遠鳴(とほなり)を
温泉(いでゆ)の中にきくこゝろよさ
[やぶちゃん注:この一首の次行には、前の「こゝろよさ」の頭の「こ」位置から下方に向って、最後に二字分の長方形のマス形 の特殊なバーが配されて、この「何處へ行く」の冒頭歌群(無題)の終了を示している。]

