郵便やさん 山之口貘
郵便やさん
寝坊した朝のこと
裏の井戸端で歯をみがいていると
むこうの
部落から出て来た
あかい自転車が眼にとまった
自転車は畑途をまがりくねって
こちらにむかってやって来るのだ
いつもはあべこべにこちらを先に廻って
それからむこうの
部落へ
まがりくねって行く筈なのにと
ぼくは、そうおもいながら
あかい自転車を見ていると
いつもの郵便屋さんとは
人がちがっていた。
[やぶちゃん注:【2014年7月11日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証で旧全集の誤植を発見、本文を訂正、注を一部追加した】思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」では最後に句点があるが、旧全集にはない。新全集を採る。初出は昭和二六(一九五一)年八月号の『郵政』で、十二年後の昭和三八(一九六三)年六月号『6年の学習』(学習研究社発行)に採録されている。草稿の題は「郵便屋さん」。「貘」とともに詩集「鮪に鰯」で児童向け雑誌に載ったものから採られた二篇の内の一篇。]