篠原鳳作句集 昭和一一(一九三六)年一月 父逝く
老父昇天 父八十二歳にて長逝す
一握り雪をとりこよ食(タ)ぶと云ふ
稚(ワカ)き日の雪の降れれば雪を食べ
神去りしまなぶたいまだやはらかに
雪天(ぞら)にくろき柩とその子われ
黑髮も雪になびけてわれ泣かず
黑髮も雪になびけて吾泣かず
[やぶちゃん注:前者は四月発行の『天の川』の、後者は同四月発行の『傘火』の句形。]
吹雪く夜をこれよりひとり聽きまさむ
[やぶちゃん注:これらの連作は四月発行の『天の川』(最後の「吹雪く夜を」は載らず、全五句)及び『傘火』(最初の二句は載らず、全部で四句)のものであるが、ここに配すこととする。鳳作の父政治(医師で熱心なキリスト教徒でもあった。但し、鳳作東大在学中に中風のために廃業して永く療養の身であった)は、この昭和十一(一九三六)年一月に八十三歳で亡くなっているからである。]