ミミコの独立 山之口貘
ミミコの独立
とうちゃんの下駄なんか
はくんじゃないぞ
ぼくはその場を見て言ったが
とうちゃんのなんか
はかないよ
とうちゃんのかんこをかりてって
ミミコのかんこ
はくんだ と言うのだ
こんな理窟をこねてみせながら
ミミコは小さなそのあんよで
まな板みたいな下駄をひきずって行った
土間では片隅の
かますの上に
赤い鼻緒の
赤いかんこが
かぼちゃと並んで待っていた
[やぶちゃん注:【2014年7月22日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証済。注を一部改稿した。】初出は昭和二三(一九四八)年八月号『芸術』。掲載誌の標題は「ミミコの獨立獨歩」である。前掲「きゃべつ」注参照のこと。
ミミコさんこと山口泉さんは昭和一九(一九四四)年三月生まれであられるから、本発表時は未だ四歳。
老婆心乍ら、「かんこ」は元来は幼児語で下駄を指し、そこから子供用の下駄をも指す一般名詞にもなったものと思われる。「かんかん」「かっこ」などとも呼ぶ。「からんころん」という下駄の音のオノマトペアが語源であろう。
*
ミミコの獨立獨歩
とうちやんの下駄なんか
はくんじやないぞ
ぼくはその場を見て言つたが
とうちやんのなんか
はかないよ
とうちやんのかんこをかりてつて
ミミコのかんこ
はくんだ と言うのだ
こんな理窟をこねてみせながら
ミミコは小さなそのあんよで
まな板みたいな下駄をひきずつて行つた
土間では片隅の
かますの上に
赤い鼻緒の
赤いかんこが
かぼちやと並んで待つていた
*]