その日その時 山之口貘
その日その時
その日その時
とるものもとりあえず
ふたりは戸外に
飛び出してしまったのだ
それでもかれはかれの
ヴァイオリンだけはかかえていた
ぼくはぼくの
よごれきったずっくの
手提の鞄をひとつかかえていたのだが
鞄のなかにはいっぱい
書き溜めた詩がつまっていた
こんな記憶を
いつまでものせて
九月一日の
地球がゆれていた
[やぶちゃん注:【2014年7月10日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証済。この注を一部改稿した。】初出は二六(一九五一)年九月一日号『夕刊 新大阪』。思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」の解題によれば、同誌は新大阪新聞社発行のもの。叙述から、これは大正一二(一九二三)年、一度目の上京の際中に罹災した関東大震災の記憶をもとにしたもので、この相部屋の相手は「ぼくの半生記」(一九五八年)によれば「興が湧くと、夜中でもとび起きてヴァイオリンをひく」という「先輩」とある人物で、場所は駒込中里町とある。因みに、この部屋は部屋の便所に女の幽霊の出るとんでもない部屋であった。]
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今日は概ね半日をバクさんの詩の初出の検証に費やした。必要と思われる箇所はリライトしたが、将来的なサイト電子版「山之口貘詩集」のための仕儀であった。されば、通常よりブログの電子テクストのアップが少ないのはお許しあれかし。