飯田蛇笏 靈芝 昭和九年(百七句) Ⅹ 河童供養 ――澄江堂我鬼の靈に――
河童供養
――澄江堂我鬼の靈に――
河童に梅天の亡龍之介
[やぶちゃん注:「亡」は「なきがら」と訓じているか。]
ほたる火を唅みてきたる河童子
[やぶちゃん注:先行する「手花火のほを唅まなと思ひけり」の注と同じく、「唅みてきたる」の「唅」は底本では「唫」であるが、この字は訓ずるとしても「どもる」(吃る)「つぐむ」(噤む)「すふ」(吸ふ)/「吟」の古字として「なげく」(嘆く)「うめく」(呻く)「うたふ」(歌ふ)/「けはし」(険し)しかなく、相応しいものがない。jin*ok*5*0 氏のブログ「日々の気持ちを短歌に」の「句集『霊芝』(22)(飯田蛇笏全句集より)昭和九年年(八)」には角川書店発行新編「飯田蛇笏全句集」よりこの句を引かれて「唅みてきたる」とある。これならば「唅(ふく)みてきたる」で腑に落ちる。ここは底本ではなく、リンク先の「唅」の字で採った。「河童子」は「かはどうじ」と読ませているか。無論、先の蛇笏自身の龍之介悼亡の句、
芥川龍之介氏の長逝を深悼す
たましひのたとへば秋のほたるかな
をインスパイアした句である。]
水神に遅月いでぬ芋畠
河童の手がけてたてり大魚籃
[やぶちゃん注:「河童」は「かはわろ」と訓じているか。]
河童祭山月これを照らしけり
[やぶちゃん注:「河童祭」は「かつぱさい」と読んでいるか。芥川龍之介の忌日「河童忌」の言い換えであろう。]
河童の戀路に月の薔薇ちれる
[やぶちゃん注:「河童」は「かはわろ」と訓じているか。]
濠の月靑バスに乗る河童かな
[やぶちゃん注:龍之介の句「靑蛙おのれもペンキぬりたてか」へのオードである。]
水虎鳴く卯の花月の夜明けかな
河童子落月つるす夜の秋
河童の供養句つづる立夏かな
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