人の酒 / 博学と無学 / 奴 山之口貘
人の酒
飲んでうたっておどったが
翌日その店の名をきかれて
ぼくは返事にこまった
人の酒ばかりを
飲んで歩いているので
店の名などいらないのだ
[やぶちゃん注:初出は昭和二六(一九五一)年十一月四日附『サン写真新聞』第一八三一号。以下の同一雑誌の掲載号から日刊であったことが分かる。発行人は東京都千代田区有楽町の「サン写真新聞社」結城慎太郎とある。ウィキの「サン写真新聞」によれば、『日本初のタブロイドサイズの夕刊専売新聞として1946年に創刊した新聞で』、『当時の新聞は太平洋戦争発生以後規制されていた夕刊が再開したものの、当時は政府当局の指導もあり製紙事情から新聞の増ページが認められなかったので実質上夕刊の発行ができなかった。その為全国紙の系列という形で夕刊専売紙を発行したが、サン写真新聞も毎日新聞の系列夕刊紙として発行された』。『タイトルが示すとおり、一般全国紙と違うのは写真記事を中心にした構成で、戦後復興を目指そうとする日本の表情を写し出す紙面づくりを目指した。1960年に廃刊されたが』、『その後創刊された夕刊フジや日刊ゲンダイなどの夕刊タブロイド専売紙に大きな影響力を持った』とある(但し、最後の部分には要出典要請がかけられている)。]
博学と無学
あれを読んだか
これを読んだかと
さんざん無学にされてしまった揚句
ぼくはその人にいった
しかしヴァレリーさんでも
ぼくのなんぞ
読んでない筈だ
[やぶちゃん注:初出は昭和二六(一九五一)年十月二十六日附『サン写真新聞』第一八二二号。]
奴
では
死ねと云われたら
死ぬ気なのかときくと
奴はかぶりを振って去った
死ぬまで待つ気なら
死んでもよい
[やぶちゃん注:初出は昭和二六(一九五一)年十月十九日附『サン写真新聞』第一八一五号。]
【2014年7月10日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証した際、「博学と無学」にミス・タイプを発見、本文を訂正、さらに「人の酒」の注に一部追加した。】