初夢 山之口貘
初夢
ことしこそはと
ぼくのみる夢
柿板葺の家を建てる夢
ひとまをこどもと女房の部屋に
ひとまはぼくの仕事部屋
ふたまもあれば沢山の
ぼくの家を建てる夢
生きたり死んだりをそこで
繰り返そうと
七坪ほどの
家を建てる夢
ことしこそはと
みるのだが
坪一万にみたところで
七万はかかる夢
[やぶちゃん注:【2014年7月21日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証済。注を一部改稿した。】初出は昭和二四(一九四九)年一月九日号『東日ダイジェスト』が挙げられてある)。本詩集の逆編年構成から考えても、前の「編上靴」が昭和二四(一九四九)年二月、次の「汽車」が昭和二三(一九四八)年十一月発表であるから、バクさんが本詩を創作したのはこの閉区間の中に同定されることになり、初夢(一般に初夢は元日から二日の夜又は二日から三日の夜に見る夢とされる、とウィキの「初夢」にはある)というのだから、この詩はまさしく近々やってくる昭和二十四年の年初(「ことしこそは」)に合わせて綴られたものと同定し得る。発表当時、バクさん、四十六歳、前年三月に詩人として生きることを決し、七月には家族ぐるみで上京して練馬貫井町の月田家に間借りしていたことは既に注した。]