中島敦 南洋日記 一月二十九日
一月二十九日(木) 林業試驗所
夜來の豪雨。此處の留守の人、朝早くコロールへ食料買出しに出る。今日ガトキップへ向ふ豫定なりしも、雨にて、如何ともする能はず。空しく逗留。午前中ゴロゴロ寐て暮す。午後、南拓の人達一寸寄る。リュックを受取る。夜、主人歸らず。二人代つて泊る。オアス(萬年筆蟲)
?
夜更けて月良し。大矢氏晝の話をしに來る。
[やぶちゃん注:「?」は「大矢」の「矢」の字の右に附されたものと思われ、「おおや」という姓の「や」が「矢」かどうか不明であったものらしい。
「オアス(萬年筆蟲)」不詳。“fountain pen worm”でも掛からない。海産か陸産かも不明で、「蟲」とはあるものの昆虫かその幼虫とも、ミミズ(タイだったか、木の幹に棲息する巨大なミミズを食用にするのをつい先日テレビで見たばかりで、ここも書き方からみて、単なるメモ書きというより、食用としたものではないかと私は思っている)やユムシのような環形動物ともとれる。気になり出すと止まらないのが、僕の悪い癖。識者の御教授を乞うものである。]
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