杉田久女句集 207 病床景Ⅲ
光子來る
朱唇ぬれて葡萄うまきかいとし子よ
[やぶちゃん注:次女光子は大正五(一九一六)年八月二十二日生まれで、当時は未だ四歳であった。]
野菊やゝ飽きて眞紅の花戀へり
秋晴や絽刺にこれる看護人
[やぶちゃん注:「絽刺」は「ろざし」と読む。絽刺し縫い。日本刺繡で絽織りの透き目に色糸を刺して布目を埋め込み、模様を作るもの。袋物・帯・草履の表などに用いる。グーグル画像検索「絽刺」。]
秋晴や寢臺の上のホ句つくり
熱無し
秋風や氷嚢からび搖るゝ壁
我いまだ帝都の秋の土踏まず
粥すゝる匙の重さやちゝろ蟲
[やぶちゃん注:「ちゝろ蟲」蟋蟀(こおろぎ)の異名。「ちろろむし」とも呼ぶ。]
咳堪ゆる腹力なしそゞろ寒
秋朝や痛がりとかす縺れ髮
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