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2014/04/18

大和本草卷之十四 水蟲 蟲之上 龍盤魚(イモリ)

【外】

龍盤魚 北戸錄ニ出タリ井中又水溝ニ生ス腹赤ク背

黑ク形守宮ニ似タリ田家ノ井中ニ多シ土人コレヲ惡マ

ス毒ナシト云井中ニヲルユヘ井モリト云イモリノシルシノ事

ハ是ニアラス守宮ノコトナリ守宮ノ下ニ詳ニス

〇やぶちゃんの書き下し文

【外】

龍盤魚(ゐもり) 北戸錄に出たり。井中、又、水溝に生ず。腹、赤く、背、黑く、形、守宮に似たり。田家の井中に多し。土人これを惡〔(にく)〕まず。毒なしと云ふ。井中にをるゆへ、「ゐもり」と云ふ。いもりのしるしの事は是れにあらず、守宮のことなり。守宮の下に詳かにす。

[やぶちゃん注:両生綱有尾目イモリ亜目イモリ科 Salamandridae に属するイモリ類で、ここには「外」(国外本草所収の謂いを示すものか)とあるものの、概ね本邦ではトウヨウイモリ属アカハライモリ Cynops pyrrhogaster を指す。

「北戸錄」は唐の段公路の撰になる嶺南の風土・物産を詳しく記した地誌。

「毒なしと云ふ」とあるが、アカハライモリ Cynops pyrrhogaster は捕食者などによって攻撃を加えられると、頸部の左右の根元にある耳腺から粘り気のあるミルク状の毒液を浸出させ、これが皮膚に附着したり、目や口などに入ると激しい痛みを感ずる。また、現在はかなり知られているように、イモリの皮膚や筋肉からはフグ毒として人口に膾炙する猛毒の神経毒テトロドトキシン(tetrodotoxin/TTX/C11H17N3O8:プロテオバクテリア門γプロテオバクテリア綱ビブリオ目ビブリオ科ビブリオ属 Vibrio やγプロテオバクテリア綱シュードモナス目シュードモナス科シュードモナス属 Pseudomonasなどの一部の真正細菌によって生産されるアルカロイドで、神経細胞や筋線維の細胞膜に存在する電位依存性ナトリウム・チャネルを抑制することによって活動電位の発生と伝導を抑制、重篤な麻痺症状を引き起こす。ここは主にウィキテトロドトキシン」に拠る。)が分泌されることが分かっている。松原史典著「フィールドベスト図鑑17 危険・有毒生物」(二〇一三年学研教育出版刊)の「アカハライモリ」によれば、『薬用として黒焼きにされることもあるが』(以下の注も参照)、『ひどい中毒や死亡例はないものの、やめたほうがよい』と注意を喚起している。

「いもりのしるしの事は是れにあらず、守宮のことなり」寺島良安「和漢三才圖會 卷第四十五 龍蛇部 龍類 蛇類の「蠑螈(ゐもり)」の項には(リンク先は私の電子テキスト)、

按ずるに、蠑螈は、草澤・溪澗及び野の井(いど)の中に生ず。俗に井守(いもり)と稱す。形、蜥蜴(とかげ)に似て、小さく、全體、正黑にして、止(た)ゞ、腹、微かに赤く、小さき黑點有り。頭、圓く扁たく、口、大なり。性、淫らにして、能く交(つる)む。夜-深(よふけ)、丑の時に至り、多く出づ。土人、其の時を候(まち)て之を取り、水中に畜ふ。俗に傳へて曰く、其の合-交(つる)みたる者を捕へて、雄と雌と、山を隔てて之を燒き、以て媚(こび)の藥と爲す。壮夫、争ひて之を求む。蛤-蚧(やまいもり)、最も佳しと爲す。然れども未だ其の効を試さざるなり。所謂る、水に入りて、魚と合-交(つる)むと云ふ者は、石--魚(いしふし)か。又、謂ふ、青黄色或は白斑と云ふ者の、未-審(いぶか)し。

とある。また、船山信次著「毒の科学」(二〇一三年ナツメ社刊)には『「イモリの黒焼き」~伝説の惚れ薬』と題するコラムが設けられ、以下の記載がある(題名を含めて一部の読みを省略した)。

   《引用開始》

 わが国では、古くから両生類のイモリの「黒焼き」が、惚れ薬として使用きれてきた。しかし、本場の中国における類似の惚れ薬には、爬虫類のヤモリの仲間が使用されている。すなわち、漢方における蛤蚧(ごうかい)という生薬である。蛤蚧とはオオヤモリの雌雄を一対として乾燥、黒焼きとしたものであり、蛤が雄、蚧が雌である。実際には雌雄を問問わず同程度の大きさの2匹を組み合わせて調製するらしい。そして、この惚れ薬を使用するときは蛤蚧を粉末とし、想う相手に知らせずにふりかけたり、酒に入れて飲ませたりするという。実際に蛤蚧エキスを正常雄性マウスに連日投与すると催淫作用があり、去勢マウスにも効果があるという。

 両生類のイモリの黒焼きは、わが国での独自解釈と取り違えによるもののようだ。もしかしたら、イモリの複雑な求愛行動からの産物かもしれない。[やぶちゃん注:後略。]

   《引用終了》

とある。なお、この文中の「オオヤモリ」とは爬虫綱有鱗目トカゲ亜目ヤモリ下目ヤモリ科ヤモリ亜科ヤモリ属トッケイヤモリ Gekko gecko のことである。

「守宮の下に詳かにす」同じ「大和本草 卷十四」の後の方に「守宮」があり、当該部分の記述は以下の通り(本電子化に準じて示す)。

[やぶちゃん注:前略。]

此血ヲ婦人ノ身ニヌレハヲチズ婬事アレハヲツルト云

此故ニ宮中ヲ守ルト云意ヲ以守宮ト名ツク此事淮南

子博物志并ニ顏師古カ説ニ出ツ右ノ二書ニ用之法

アリ各カハレリ本邦ニモ是ニヨツテ古ヨリイモリノシルシト云

ヘリ古哥ニモヨメリ又水中ニアリテ腹赤ク背クロクシテ形

ハ守宮ニ似タルヲモイモリト云是龍盤魚ナリイモリノシル

シノ事ハ守宮ナリ龍盤魚ニアラス守宮モ龍盤魚モ共ニ

倭名ヲイモリトイヘルハ紛ヤスシ〇[やぶちゃん注:後略。]

〇やぶちゃんの書き下し文

(前略)此血を婦人の身にぬれば、をちず、婬事あれば、をつる、と云ひ、此の故に、宮中を守ると云ふ意を以つて『守宮』と名づく。此の事、「淮南子」・「博物志」并びに顏師古が説に出づ。右の二書に之を用ゐる法あり、各々かはれり。本邦にも是によつて古へより『イモリのしるし』と云へり。古哥にもよめり。又、水中にありて、腹、赤く、背、くろくして形は守宮に似たるをも、『イモリ』と云ふ。是れ、龍盤魚なり。『イモリのしるし』の事は、守宮なり、龍盤魚にあらず。守宮も龍盤魚も共に倭名を『イモリ』といへるは紛〔(まぎ)〕れやすし。(後略)

とある。]

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