萩原朔太郎「ソライロノハナ」より「何處へ行く」(10) くもり日
くもり日
死なん哉さらば生きん
すてばちの身をば柱になげかけて
忍びなきする此の頃のくせ
ぴすとるの口を額に押しあてゝ
そのつめたさに驚きて泣く
大方は死なでもあるか越し方は
みな一筋の灰色の途
[やぶちゃん注:底本校訂本文は「越し方」を「來し方」と『訂』する。従わない。]
空虛(うつろ)なるこの心をば充たすべき
何物もなし酒店に入る
居酒屋の樽に腰かけ燒酎(しやうちう)を
飮み習はすもいたましき哉
[やぶちゃん注:「しやうちう」はママ。正しくは「せうちう」。]
「かきおき」を書きたることも五つ度の
上にのぼれど尚知死なであり
[やぶちゃん注:次の一首でも全く同様の「死」を抹消して「知」とする朔太郎自身による訂正があるが、「ソライロノハナ」ではこうした抹消訂正は極めて珍しい。]
たゞひとつ戀はれ戀してあることを
死知らで死ぬるが悲しさに泣く
△
[やぶちゃん注:「△」はこの「くもり日」歌群の終了を意味するものか(但し、次の四首には標題がない)。]

