縁側のひなた 山之口貘
年を問われると小さなその指を
だまって四つそろえたのだが
お口はないのかなと言うと
口をとんがらかして
よっつと言い
膝の上にのっかって来ては
パパのしらがをぬくんだと言うのだ
いつのまにだかこのパパも
しらがと言われる白いものを
頭のところどころに植えては来たのだが
ミミコがたった四つと来たのでは
四十五歳のパパは大あわて
しらがはすぐに植えつけねばならぬので
ひなたぼっこもなにもあるものか
ミミコをお嫁にやるそのころまでに
白一色の頭に仕上げておいて
この腰なども
ひん曲げておかねはならぬのだ
[やぶちゃん注:【2014年7月22日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証した際、本篇の公開を落していたことに気づいたので、底本順列を壊さないためにここに本日挿入した。悪しからず。】昭和二三(一九四八)年八月号『芸術』。掲載誌の標題は「緣側にて」。前掲「きゃべつ」注参照のこと。
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緣側にて
年を問われると小さなその指を
だまつて四つそろえたのだが
お口はないのかなと言うと
口をとんがらかして
よつつと言い
膝の上にのつかって來ては
パパのしらがをぬくんだと言うのだ
いつのまにだかこのパパも
しらがと言われる白いものを
頭のところどころに植えては來たのだが
ミミコがたつた四つと來たのでは
四十五歳のパパは大あわて
しらがはすぐに植えつけねばならぬので
ひなたぼつこもなにもあるものか
ミミコをお嫁にやるそのころまでに
白一色の頭に仕上げておいて
この腰なども
ひん曲げておかねはならぬのだ
*]