闇とマル公 山之口貘 [やぶちゃん注:「マル公」は底本では「公」の「〇」の囲み字。]
闇と※
[やぶちゃん注:「※」は「公」の「〇」の囲み字。詩中も同じ。]
さつまをもらい
ねぎをもらい
たばこのはっぱをなんまいだか
もらったこともたしかなのだが
もらいに行って
もらって来たのではなかったのだ
疎開はまったく気の毒でなあとか言って
百姓が裏口からのぞいては
食えと出すのでそれをもらい
のぞいてはまたそれを
吸えと出すのでもらったのだ
こんなことからのおつきあいで
女房と僕のとを合わせて百五拾円
その百姓に貸してあげたのだ
百姓はまもなく借りを返しに来たのだが
お米でとってくれまいかと
一升枡きっかりの
闇をそこに置いた
貸したお金は※なのだが
[やぶちゃん注:【2014年7月21日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証済。注を一部追加した。】初出は昭和二三(一九四八)年八月号『社会』。この雑誌、先の「藁の厠」が載った『人間』という雑誌を発行しているのと同じ「鎌倉文庫」なる発行所である(編集人は異なる)。
「※」は「マルこう」と読む。日中戦争下の価格等統制令及び第二次大戦後の物価統制令による公定価格を示す表示及びその公定価格をいう。]