ヤマグチイズミ 山之口貘
ヤマグチイズミ
きけば答えるその口もとには
迷い子になってもその子がすぐに
戻って来る筈の仕掛がしてあって
おなまえはときけば
ヤマグチイズミ
おかあさんはときけば
ヤマグチシズエ
おとうさんはときけば
ヤマグチジュウサブロウ
おいくつときけば
ヨッツと来るのだ
ところがこの仕掛おしゃまなので
時には土間にむかって
オーイシズエと呼びかけ
時には机の傍に寄って来て
ジュウサブロウヤとぬかすのだ
[やぶちゃん注:【2014年7月21日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証済。注を一部追加した。】初出昭和二三(一九四八)年八月号『芸術』。掲載誌の標題は「やまぐちいづみ」と平仮名表記である。前掲「きゃべつ」注参照のこと。バクさんの本名は山口重三郎。発表当時、ミミコ(泉)さんは四歳。この発表時は丁度、練馬に転居した頃である。
*
やまぐちいづみ
きけば答えるその口もとには
迷い子になつてもその子がすぐに
戻つて來る筈の仕掛がしてあつて
おなまえはときけば
ヤマグチイズミ
おかあさんはときけば
ヤマグチシズエ
おとうさんはときけば
ヤマグチジユウサブロウ
おいくつときけば
ヨツツと來るのだ
ところがこの仕掛おしやまなので
時には土間にむかつて
オーイシズエと呼びかけ
時には机の傍に寄つて來て
ジユウサブロウヤとぬかすのだ
*]
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