税金の歌 山之口貘
税金の歌
地球のうえを
ぼくは夢中で飛び廻った
税金ならばかかって来ないほど
ぼくみたいなものにはありがたいみたいで
かかって来てもなるべく
税金というのはかるいほど
誰もの理想に叶っているのではなかろうかと
ぼくはそのようにおもいながらも
免税を願っているのでもなければ
差押えなんぞくらいたいほどの
物のある身でもないのだ
ぼくは自分の家庭に
納めなくてはならない筈の生活費でさえも
現在まさに滞りがちなところ
税金だけは借りてもなんとか納めたいものと
地球のうえを
金策に飛び廻った
ところが至るところに
ぼくは前借のある身なのであったのだ
いま地球の一角に
空しく翼をやすめ
どんな風にして税金を納めるかについてぼくは考えているところなのだ
文化国家よ
耳をちょいと貸してもらいたい
ぼくみたいな詩人が詩でめしの食えるような文化人になるまでの間を
国家でもって税金の立替えのできるくらいの文化的方法はないものだろうか
[やぶちゃん注:【2014年7月12日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証済。】初出は昭和二六(一九五一)年二月号『文藝』。]