橋本多佳子句集「信濃」 昭和二十年 Ⅻ
貨車の旅
寒星のひかりにめざめ貨車の闇
寒の闇體がくんと貨車止る
貨車とまる驛にあらざる霜の庭
貨車の闇小さき鏡に霜明くる
貨車の扉(と)の筑紫冬嶽みな尖る
[やぶちゃん注:既注であるが、再度注しておくと、この昭和二十年『冬、農地改革が行われるに当たり、九州大分にある農園の後始末のために次女の国子と行く。京都駅に配置された貨車に乗り、九州までの長旅を揺られて行』ったが、いざ着いてみると『夫の残した大分農場の荒廃に驚く』と底本年譜にある。当時、多佳子四十六歳であった。]
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