深夜 山之口貘
深夜
これをたのむと言いながら
風呂敷包にくるんで来たものを
そこにころがせてみると
質屋はかぶりを横に振ったのだ
なんとかならぬかとたのんでみるのだが
質屋はかぶりをまた振って
おあずかりいたしかねるとのことなのだ
なんとなからぬものかと更にたのんでみると
質屋はかぶりを振り振りして
いきものなんてのはどうにも
おあずかりいたしかねると言うのだ
死んではこまるので
お願いに来たのだと言うと
いきものなんぞおあずかりしたのでは
餌代にかかって
商売にならぬと来たのだ
そこでどうやらぼくの眼がさめた
明りをつけると
いましがたそこに
風呂敷包からころがり出たばかりの
娘に女房が
寝ころんでいるのだ
[やぶちゃん注:【2014年7月10日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証済。】初出は昭和二七(一九五二)年一月一日発行の『中央公論』一月号(「文芸特集」と名打っているらしい)。バクさんの質屋詩の中でも飛びっきりの怪作で私の偏愛するものである。]
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