竹林とその点景 山之口貘
竹林とその点景
竹林をひと廻り廻って見て
買い手の男はこう言った
一把が二十両
百把とみつもって二千両だと
そこで話はすぐにきまった
老婆はその手に初めての重いお金を受取った
八十二さいになったという
老婆の顔色をひと廻り
あととりむすこが見て言った
うっかり死ねない世の中なんだぞ
棺桶ひとつが千両もするんだと言った
そこで話はすぐにまとまって
お金は葬式代に化けるため
老婆の手からあととりむすこの手に落ちた
竹林はたちまち
まばらになって
筑波山が見えると老婆がつぶやいた
[やぶちゃん注:【2014年7月22日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証済。】初出は昭和二二(一九四七)年七月号『諷刺文学』。「両」は「円」のことであろうが、昭和二十二年当時の物価は白米十キログラムが百五十円(サイト「近現代・日本のお金」の「戦後のお金(1)」に拠る)である。戦後の食糧難の時代であるからこの白米百五十円は相当に高額であろうが、現在の白米十キロは凡そ二千円強であるから、冒頭の描写から相応に広いこの竹林を丸裸にした、その竹材の総金額が二千円(単純換算で二万八千円程度)が「お金は葬式代に化ける」程度でしかないというのは腑に落ちる。]