萩原朔太郎「ソライロノハナ」より「何處へ行く」(12) あそびや
あそびや
鐘が鳴るあれは上野か淺草か
逢引の夜の月の出もよし
鼻唄が知らで過ぎたる角見世の
その「蘭蝶」に更くる色街
音羽屋とかけ聲なぐるその下に
やくざ男が拍子木をうつ
[やぶちゃん注:「拍子木」は原本は「調子木」。校訂本文を採った。]
明烏夢の淡雪消ゆるより
果敢なき戀のくりごとを聞く
あそびやの離れ座敷の丸窓に
ひとゝもたれて見たる初雪
[やぶちゃん注:「離れ座敷」は原本は「放れ座敷」。誤読の恐れがあるので校訂本文を採った。
この一首の次行に、前の「見たる初雪」の「見」位置から下方に向って、最後に以前に示した特殊なバーが配されて、この「あそびや」歌群の終了を示している。]