橋本多佳子句集「信濃」 昭和二十一年 Ⅴ
久し振りなるにしき丸にて九州へ 三句
夜光虫舳(へ)波の湧けば燃ゆるなり
高松へ寄港
枇杷買ふて舷梯のぼる夜の雨
仄かにも渦ながれゆく夜光虫
わが園藝場の栗畑伐りて畠とさる 八句
花栗の伐らるる音を身にし立つ
由布嶽、鶴見嶽等園をかこめば
樹々伐られ夏嶽園(ゑん)に迫り聳つ
月燦々樹を伐られたる花栗に
花栗の枝ふりかぶり斧うちうつ
生々と切株にほふ雲の峰
炎天の淸しき人の汗を見る
炎天の淸々しさよ鐡線花
雨の蚊帳花栗の香にい寢られず
[やぶちゃん注:前掲の同年年譜の最後にあった農地改革によって『十万坪の大分農場は農地払下げとなる。坪八十銭』の変容の只中を活写した嘱目吟。チェーホフの「桜の園」をインスパイアしてもいるが、それがやや見え透いてしまい、プチ・ブルでさえない私には今一つ感懐が伝わらぬ。悪しからず。]
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