橋本多佳子句集「信濃」 昭和十九年 Ⅳ 古雛をみなの道ぞいつくしき
祖母の雛上野の戰火をのがれて今も吾と在り
古雛をみなの道ぞいつくしき
[やぶちゃん注:「古雛」は「ふるひひな」と訓じていよう。「いつくしき」は「美し/厳し」で、原義は「威厳を持っている」「堂々として立派だ」の謂いであるが、そこから容姿や態度が優れている、美しい、また、心が澄んで非の打ちどころがない、の謂い。「上野」とあるが、年譜を見ると多佳子は東京市本郷区鶴岡町で生まれており(明治三二(一八九九)年一月十五日生まれ、本名多満)、明治四三(一九一〇)年の項には明治三十八年に移住していた浅草区瓦町から『母の実家に近い本郷湯島天神下に母子三人で移住』(多佳子の父雄司は明治四十二年に逝去している)とあり、上野の直近であるから、この祖母とは「をみなの道ぞいつくしき」からも、母方の祖母のことかと思われる。]
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