編上靴 山之口貘
編上靴
それらの絵をとんちゃんが
一々指さしてきくと
ミミコがそれに答えて言った
これはときくと
ボウシ
それはときくと
ウサギ
これはときくと
タイコ
それはときくと
ヒヨコ
これはときくと
オクツ
そこでとんちゃんがミミコに
よしそれじゃそのお靴
なんという靴なんだいときくと
小首をかしげてつまったが
ミジカナガグツと言ってのけた
[やぶちゃん注:【2014年7月21日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証済。】初出は昭和二四(一九四九)年二月発行の『女性線』。この雑誌は編集人が藤村玲子、発行所は東京都中央区銀座「女性線社」とあるが詳細不詳。変わった社名であるが、一九三〇年製作のソヴィエトの無声映画の本邦放映時の題名に「新女性線」が、また、昭和八(一九三三)年六月に公開された新興キネマ製作・原作中村武羅夫・監督田中重雄の日本映画(これも無声)に、やはり「新女性線」という題名を見出せるが、これらと関係があるか。因みに前者の英訳題は“Hygienics of Woman”(「女性の衛生学」)で、その内容は社会主義衛生学に於ける新しい女性のあるべき健康的在り方をテーマとしたものらしい(前者は「映画.com」を、後者は「日本映画情報システム」を参照した)。発表当時でミミコ(泉)さんは未だ満四歳であった。「とんちゃん」大人の愛称らしいが不詳。]