歯車 山之口貘
歯車
靴にありついて
ほっとしたかとおもうと
ずぼんがぼろになっているのだ
ずぼんにありついて
ほっとしたかとおもうと
上着がぼろぼろになっているのだ
上衣にありついて
ほっとしたかとおもうと
もとに戻ってまた
ぼろ靴をひきずって
靴を探し廻っているのだ
[やぶちゃん注:【2014年7月3日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証済。初出注を追加した。】初出は昭和三一(一九五六)年三月号『小説新潮』。原稿では、元の詩題を「自画像」としたものを「歯車」と改題してあるらしい(これは新全集の解題ではなく(恐らくは未刊の第四巻で解説される予定と思われる)、松下氏の「稿本・山之口貘書誌(詩/短歌)」の注記に拠った)。]