篠原鳳作句集 昭和一一(一九三六)年二月 映画『家なき兒』他
映画『家なき兒』
靑麥の穗はかぎろへど母いづこ
陽炎にははのまなざしあるごとし
碧空冬木しはぶくこともせず
飢えし瞳(メ)に雪の白さがふりやまぬ
母求(と)めぬ雪のひかりにめしひつつ
[やぶちゃん注:以上五句、二月発行の『傘火』の「映画『家なき兒』」連作(と思われる)。フランスの作家エクトール・アンリ・マロー(Hector Henri Malot 一八三〇年~一九〇七年)が一八七八年に発表した児童文学「家なき子」(フランス語原題“Sans famille”)は複数の映画化作品があるが、時代的に考えて一九三四年フランス製作で昭和一〇(一九三五)年に本邦でラテン映画社から配給上映された四作目の映画化作品と思われる。脚色に劇作家アンドレ・ムエジー・エオン(André Mouëzy-Éon)が当たり、監督は「はだかの女王」「ファニイ」のマルク・アレグレ(Marc Allégret)、主役をルナール原作の名作「にんじん」(名匠ジュリアン・デュヴィヴィエ(Julien Duvivier)監督の一九三二年作品)で美事な「にんじん」役を演じた名子役ロベール・リナン(Robert Lynen)少年が演じ、他に「狼の奇蹟」に出たフランスの著名なバス歌手ヴァンニ・マルクー(Vanni Marcoux)、「ドン・キホーテ」(一九三三年)のドルヴィル(Dorville)が共演した他、「母の手」の子役ポーレット・エランベール(Paulette Élambert)や、ジョアンナ・ベランジェール(Jeanne
Bérangère)、エーメ・クラリオン(Aimé Clariond)、ジョルジュ・ヴィトラフ(Georges Vitray)らが出演した。撮影はジャン・バシュレ(Jean Bachelet)及びクロード・ルノアール(Claude Renoir)の共同担当で(ルノアールの撮影共同担当は以下の「映画.com」のデータによるもの)、音楽はモーリス・イヴェン(Maurice Yvain)であった(「映画.com」のこちらのデータやフランス語版ウィキの“Sans famille (film, 1934)”などを参考にした)。]
罪業を血のうつくしさ炭火に垂らす
(自己加虐)
ふつふつと血を吸ふ炭火さはやかに
自畫像の靑きいびつの夜ぞ更けぬ
[やぶちゃん注:以上の三句はキャプションに『現代俳句集』とある。恐らく、底本年譜に載る昭和三二(一九五七)年筑摩書房刊の「現代日本文学全集」第九十一巻「現代俳句集」の横山白虹編になるものを指すかと思われる。
以上、十五句は二月の発表句及び創作句として配されてある。]