ミミコ 山之口貘
ミミコ
おちんちんを忘れて
うまれて来た子だ
その点だけは母親に似て
二重のまぶたやそのかげの
おおきな目玉が父親なのだ
出来は即ち茨城県と
沖縄県との混血の子なのだ
うるおいあるひとになりますようにと
その名を泉とはしたのだが
隣り近所はこの子のことを呼んで
いずみこちゃんだの
いみこちゃんだの
いみちゃんだのと来てしまって
泉にその名を問えばその泉が
すまし顔して
ミミコと答えるのだ
[やぶちゃん注:【2014年7月22日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証済。注を改稿した。】初出は昭和二三(一九四八)年八月号『芸術』で、掲載誌の標題は「ミミコの由來」。前掲「きゃべつ」注参照のこと。思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」では本篇は清書原稿を底本としているが、そこでは、十二・十三行目が、
いみちゃんだの
いみこちゃんだのと来てしまって
となっている。これは「定本 山之口貘詩集」の方が躓きがない。
*
ミミコの由來
おちんちんを忘れて
うまれて來た子だ
その點だけは母親に似て
二重のまぶたやそのかげの
おおきな目玉が父親なのだ
出來は即ち茨城縣と
沖繩縣との混血の子なのだ
うるおいあるひとになりますようにと
その名を泉とはしたのだが
隣り近所はこの子のことを呼んで
いずみこちやんだの
いみこちやんだの
いみちらんだのと來てしまつて
泉にその名を問えばその泉が
すまし顏して
ミミコと答えるのだ
*]