篠原鳳作初期作品(昭和五(一九三〇)年~昭和六(一九三一)年) Ⅵ
佇ちつくし月夜の虹を仰ぎけり
海坂や映りそろひし雲の峰
[やぶちゃん注:老婆心乍ら「海坂」は「うなさか」で「海境」「海界」とも書き、海の水平線を指す。古く、舟が水平線の彼方に見えなくなってしまうのは、海に他界へと通ずる境界、黄泉の国との境に当たる黄泉比良坂と同じようなものがあると考えたからとされ、神話に於ける異界としての海神の国と人の世界との境を意味した古語である。]
しとしととお芋こやしの秋の雨
首里城に桑の實盗りの童あり
木の上にののしる童等や桑うるる
[やぶちゃん注:「童等」は「こら」と訓じているか。]
桑うるる高枝に鷄ののぼりをり
浦風に吹きまくらるる蚊帳かな
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