篠原鳳作句集 昭和一一(一九三六)年一月
昭和一一(一九三六)年
口笛を吹かず
月光の衣(そ)どほりゆけば胎動を
泣きぼくろしるけく妻よみごもりぬ
みごもりし瞳のぬくみ我をはなたず
みごもりし瞳(メ)のぬくみ我をはなたづ
[やぶちゃん注:前者は一月発行の『天の川』の、後者は同月発行の『傘火』の句形。一読、前者は「ひとみのぬくみ」と読んでしまうが、「め」で恐るべき破調であることが分かる。]
爪紅のうすれゆきつつみごもりぬ
爪紅のうすれそめつつみごもりぬ
[やぶちゃん注:前者は一月発行の『天の川』の、後者は同月発行の『傘火』の句形。私は後者のスラーの韻律を好む。以上、連作「口笛吹かず」であるが、冒頭の「月光の」の句は『天の川』のみに所載する句である。]
おさなけく母となりゆく瞳(メ)のくもり
[やぶちゃん注:同月発行の『傘火』にのみ載る。連作「口笛吹かず」の一つか。『傘火』にのみ載る。]
行幸
生れくる子にも拜しむねぎまつる
[やぶちゃん注:ネット検索の結果、「鹿児島大学理学部同窓会のホームページ」内の「西川孝雄さんのアルバム集 昭和天皇行幸の写真集」によって昭和天皇が昭和一〇(一九三五)年十一月十七日に第七高等学校造士館(現在の鹿児島大学)を訪問していることが分かった。
以上、八句は鳳作没年である昭和一一(一九三六)年一月の発表句である。]
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