萩原朔太郎「ソライロノハナ」より「午後」(8) たそがれ Ⅴ
椽ばたに疲れし顏が煙草吸ふ
教師の家の家の庭のこすもす
[やぶちゃん注:「椽」はママ。校訂本文は「緣」と訂するが、芥川龍之介など、「緣」を「椽」と書く慣用例は頗る多いので、訂せずにそのままとした。本歌は朔太郎満二十四歳の時の、『スバル』第三年第四号(明治四四(一九〇三)年四月発行)に掲載された、
縁端に疲れし顏の煙草吸ふ教師の家の庭のこすもす
の表記違いの相同歌。]
野分こそいと可笑しけれ花合の
猪つける札思ひ出づ
きさらぎや笛の稽古の通ひたる
我が故郷の橋のうす雪
[やぶちゃん注:朔太郎満二十三歳の時の、『スバル』第二年第四号(明治四三(一九〇二)年四月発行)に掲載された、
二月や笛の稽古に通ひたる故郷の町の橋のうす雪
の類型歌。]
前橋の電話交換局にありといふ
わが初戀の人のせうそこ
ある宵のそゞろありきにピンポンの
音を床しみ透き見せし家
行く春の淡き哀しみのイソツプの
蛙の腹に破裂せし音
[やぶちゃん注:朔太郎満二十三歳の時の、『創作』第一巻第四号・明治四三(一九〇二)年六月号に掲載された、
行く春の淡き悲しみいそつぷの蛙のはらの破れたる音
の表記違いの相同歌(太字「いそつぷ」は底本では傍点「ヽ」)。]
淸元の神田祭のメロデイに
似たる戀しぬたちばなの花
[やぶちゃん注:同じく『創作』第一巻第四号・明治四三(一九〇二)年六月号の一首、
淸元の神田祭のメロデイに似たる戀しぬたちばなの花
の表記違いの相同歌。]
わが妹初戀すとは面白し
オーケストラの若き笛ふき
[やぶちゃん注:同じく『創作』第一巻第四号・明治四三(一九〇二)年六月号の一首、
わが妹初戀すとは面白しオーケストラの若き笛ふき
の表記違いの相同歌。]
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