飯田蛇笏 靈芝 昭和七年(七十二句) Ⅷ
靑梅路や秋がすみして大菩薩
乳牛に無花果熟るゝ日南かな
大森、松淺離房句會、二句
つかのまの絃歌ひゞきて秋の海
秋海にたつきの舟の曇りけり
[やぶちゃん注:「大森、松淺離房句會」不詳。]
百華撩亂たる帝展の中、恰も見る、
さるやんごとなきあたりの新婚と
おぼしければ。
帝展に蓮歩をうつす契りかな
[やぶちゃん注:「蓮歩」は「れんぽ」で、美人の艶やかな歩みをいう語。金蓮歩。斉の東昏侯(とうこんこう)が潘妃(はんひ)に金製のハスの花の上を歩かせたという「南史」の「斉東昏侯紀」の故事に基づく語。]
こしかけて山びこのゐし猿茸
[やぶちゃん注:「猿茸」は「ましらたけ」と読む。担子菌門菌蕈(きんじん)綱ヒダナシタケ目サルノコシカケ科 Polyporaceae の類及び子実体がそれらに似た形状を指す茸類の総称異名。朽木や古木に寄生する木質の茸で半円形又は疣状の棚状の形状を示す。]
ころころところがる杣や茸の毒
[やぶちゃん注:「茸」は「たけ」と訓じているか。小説的で変形型の鬼趣の句である。]
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