常磐線風景 山之口貘
常磐線風景
ぶらさがっている奴
しがみついている奴
屋根のへんにまでへばりついている奴
奴らはみんなそこにせり合って
色めき光り生きてはいるのだが
どの生き方も
いのちまる出しの
出来合いばかりの
人間なのだ
汽車は時に
奴らのことを
乗せてはみるが振り落して行った
線路のうえにところがる奴
田圃のなかへとめりこんでしまう奴
時にはまた
まるめられて
利根川の水に波紋となる奴
[やぶちゃん注:【2014年月7日21追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証済。】初出は昭和二四(一九四九)年四月発行の『文藝往来』(発行所は東京都中央区日本橋茅場町「鎌倉文庫」)。
この常磐線の車内と利根川の車窓風景は恐らくは発表時よりも一年以上前のものである(推定であるが、戦後それほど経っていない頃の買い出しの光景のように見える)。既注済みであるが、バクさんは戦前の昭和一四(一九三九)年(静江さんとの婚姻後二年目)から東京府職業安定所に勤務していた(生れて始めての、そしてただ一度の社会的な意味での定職であった)が、昭和十九年になって茨城県結城の妻静江さんの実家に本人も一緒に疎開し、驚くべきことに東京まで四時間近くかけての汽車通勤をし、それを戦後も続けていたのであった(その後、昭和二三(一九四八)年三月に東京府職業安定所を退職、文筆一本の生活に入り、その四ヶ月後に一家で練馬区貫井(ぬくい)町に間借りすることとなる)。]
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