藁の厠 山之口貘
藁の厠
青いももみたいな
お尻をまる出しにして
ミミコはそこにしゃがんだのだが
ふとその踏み板の上にあるのを見て
あわのほがあるよ
へんだなと言った
へんじゃないよ粟の穂だものと言うと
だっていなかのおべんじょ
わらなんだのにと言うのだ
なるほどまわりが藁なんだのに
落ちているのは粟の穂なのか
あたりを見廻しているとそのときなのだ
ミミコがお尻ごともちあげて
わかったあったと指さして言った
いかにも一本の粟のやろうが
藁のふりしてまぎれていた
[やぶちゃん注:【2014年7月21日追記:思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」と対比検証済。注の一部を訂正した。】初出は昭和二三(一九四八)年十月号『人間』。掲載誌の標題は「藁の厠―農村風景―」。]